たいてい全部ただの日。

雨の日もとか風の日もとかいちいち言わないブログ。

大学のいいところをあの手この手で伝える

ブログの更新を1ヶ月半もサボるという暴挙。新たなインターネット廃屋をまた一つこしらえるところだったわ。

ということで。

 

螢雪時代10月号、好評発売中です。よろしくお願いします。

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小誌の記事には社員編集者が自分で書くもの、取材から誌面の仕上げまで外部のライターさんやエディターさんにお任せするものといろいろある。その中で、私は大学の学部長や学長へのインタビュー記事を毎月1本担当している。アポ取り、取材、写真撮影、原稿起こしから入稿作業まですべて自前作業なのでなかなかに時間を取られる仕事ではあるが、デスクに縛り付けられる日常からつかの間解放されて全国各地の大学へ赴くひと時は良い気分転換にもなるし、その部分だけを採ればありがたい境遇ではあると思う。

先日はこの記事の取材もコミの仕事で北海道を訪れていた。天候にも恵まれて、良い取材旅行となった。中でも北海道大学キャンパスのすばらしさといったら、これは文章で端的に表すことが難しいのだけれど、きっと北大生の人格形成に大いに好影響を与えるものであろうと実感させる風景だった。

その北大が、財政問題で揺れている。

elm-mori.hatenablog.com

まだ提案の段階ではあるし、上記記事は教職員組合のスタンスで書かれたものであるという前提に立って、「教授205名分」という数字が独り歩きしないよう心がけたいと思う。とはいえ、やはり衝撃的な数字ではあるし、日本でトップクラスの国立大学からこういう話が出てくるところに問題の深刻さはある。

大学進学を志す若者たちに学ぶことと場所の魅力、そしてそこへたどり着くための方法を伝えることを仕事にしている人間として、こういうニュースは実に辛い。それでも、彼らが学び、未来を創っていく場所を守るためにも、「伝える」ことはありとあらゆる方法で続けていかなければならないと思っている。

 

flic.kr

北海道から戻ってきてすぐ、個人のflickrアカウントに上のようなアルバムを設置した。知らない人から見ればただの風景写真だが、受験生が自分の未来予想図を描くイメージづくりの一助になれば幸い。

 

進撃の「20世紀末少女」

螢雪時代9月号、8月12日発売です。よろしくお願いします。

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さて。螢雪時代とは何の関係もないが、明日8月6日から国営ひたち海浜公園ROCK IN JAPAN FES. 2016が開幕する。私も7日(日)の回に行く予定なのだが、実は初日のチケットが取れなかったことを激しく悔やんでいる。初日のメインステージには誰あろう、あのBABYMETALが登場するからだ。

私はもともと、アイドルの類にはほとんど興味を持ったことがない。『イジメ、ダメ、ゼッタイ』のMVを初めて観たときは「こいつらはふざけてるのか?」と思ったくらいだが、気がついたらあの3人の女の子たちと白塗りのバンドメンの虜になっていたのである。

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私は、世間のドルヲタの皆さんが好きなアイドルをどんな感情で見ているのかよくわかっていないが、どうも自分は、なんだか娘の成長を見守る父親のような気持ちでベビメタの快進撃を見ている気がする。

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すでに2年前の映像だが、ちょっと前まで小学生だった女の子たちが外国に飛び出し、顔に闘志をみなぎらせて大群衆に立ち向かっていくのを目の当たりにして、おじさんは胸が詰まって涙がこぼれそうになってしまったのだ。ちょっとそこの人、気持ち悪いとか言わないでください。

BABYMETALについては、まがいものだとか、女の子たちが大人たちにアーティストを演じさせられているだけだとかいったネガティヴな評価がつきまとうことも知っている。しかし、やはり本人たちに相当なモチベーションがなければこれほど完成度の高いパフォーマンスはできないだろうし、世界を戦い抜くエネルギーも生まれないだろうと思う。また、どんな形であれ、いまや「伝統芸能」と揶揄されるほどに草臥れたジャンルとなってしまったヘヴィメタルに、いい意味である種の混乱と新しい風を吹き込んだのが彼女たちであることは間違いない。

 

話をちょっと仕事の方に戻すが、小誌9月号では巻頭特別インタビューとしてドラマーの川口千里さんに取材をさせてもらった。10代前半からプロとして活動していたが、YouTubeに上げたプレイ動画が世界中で話題になり、活躍の場を広げるきっかけにもなったという。

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(このとんでもなくすごい16歳の女性ドラマーには驚いた。俺が聴いた中で最高のドラマーのひとりだよ)

 

 上は、彼女のプレイをYouTubeで見たトム・モレロ(Rage Against the MachineAudioslaveなどの活動で知られるギタリスト)の一言。

現在早稲田大学の2年生でもある彼女がプロミュージシャンと受験生の二足のわらじを履きながらどんなことを思っていたのか、そのあたりはぜひ小誌9月号をご覧いただければと思う。

 

川口さんは1997年生まれ。BABYMETALのリードヴォーカルを務めるSU-METALこと中元すず香と同い年だ。YouTubeがきっかけでブレイクしたという点でも共通している。もしかすると、物心ついたころからインターネットが当たり前のように使われる生活を経験してきた彼女たちにとって、国境を越えて世界へ飛び出すことは、私たちの世代が感じるよりずっと軽いステップなのかもしれない。

人間、歳を取ると暗い話ばかりしたがるようになるものだが、かつては人類滅亡の日と噂された20世紀末に生まれた女の子たちが、国境も言葉の壁も涼しい顔をして飛び越えて行くのを見ると、未来に期待するのもそれほど悪いことじゃないような気がしてくるし、行く末を最後まで見届けたい気分にもなってくる。

ということで、じゃ、明日も頑張って生きていきましょう。

 

 

「意識高い」ってどういうこと?

螢雪時代7月号』好評発売中です。よろしくお願いします。

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7月号の特集テーマは「苦手&弱点攻略法」。夏に向けて学力の穴をカバーしたい受験生の皆さんの参考になることを願う。

さて、メインの特集については本誌をじっくりお読みいただくとして、ここで第2特集で、大学のクラブ・サークルを取り上げた記事について触れておきたい。これも詳細は本誌を読んでね(笑)

私が担当したのは、早稲田大学ラオスへの教育支援に取り組む学生プロジェクトの取材。会の中心的な役割を務める3人の学生さんに、プロジェクトに入ったきっかけや活動の魅力についてお話を伺った。

現地の子どもたちの笑顔を見る喜びや困難な出来事を乗り切ったときの達成感など、私は自分のゴミのような学生時代を思い出しながら何だか申し訳ないような気持ちで話を聞いていた。

 

ちょっと話は変わるが、私には世の中を見ていて「こりゃネーミングを誤ったなあ」と思う言葉がいくつかある。そのひとつが「意識高い系」という言葉だ。

勉強やビジネススキルの習得、人脈づくりなど自分を磨くことに熱心だが、その目的が就活での自己アピールや優越感ゲームなど、あまり生産的でない方向に向いている人―というのが自分の中での「意識高い系」の解釈で、まあそういう人いるよねというのは確かに思うのだが、この言葉を使われる方からは「前向きに努力している若者をバカにするな」と反論が上がり、かたや「地道に生きてるサラリーマンをバカにしてるのは意識高い系のほうだろ」と罵り合うというなんとも不毛な状況が生まれているのは、「系」の1文字に語義の重みを乗せすぎているこの言葉のネーミングの問題なんじゃないかなあと常々思っている。そして、本来であれば世の中や自分自身のために役立つはずの知識やスキルや人脈を「自分飾り」にしか使わない若者がいるとするならば(いるんだけど)、それは本人の問題というよりも、そういう方向に彼ら彼女らを唆す「わるい大人」の存在に問題の根があるんじゃないかということも、考えに添えておかねばならないと思う。

 

話を戻す。私が早稲田で出会った3人の学生さんたちは、ほんとうの意味で、意識の高い若者たちだった。意識が高いというよりは、自然に意識が高くなったというほうが正確かもしれない。メンバーの一人は、軽い気持ちで始めたこの活動がきっかけになって、いま、東南アジアで働くことを視野に入れた進路を組み立てているという。
小誌の編集体制として、そういう学生さんに出会いやすいバイアスがあることは自覚している。それでも、そんな若者たちが少なからず存在するというのはたまらなく喜ばしい事実だし、その方向に少しでも光を当てることは、ハメを外した様子をTwitterにうpして炎上している学生を悪目立ちさせるよりなんぼかポジティヴだと思うのだが、メディアに携わる皆さんはどう思うだろうか。

本日の一曲。

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その昔、部屋にSPEEDのポスターを貼っていた男性社員のことを「あいつ大丈夫か?」と心配していた私の上司も今ではすっかりゆいちゃんともあちゃんの虜です。クールジャパン(白目)

インスタント正義問題

このようなテレビ番組を観た。

nhk.jp

時間がなくて最後まで観られなかったのだが、別に社会が昔と比べて極端に不寛容化しているという話ではなくて、今も昔も社会に一定数いる「自分の正義をピュアに信じてしまう人々」をどうするかという問題なんじゃないだろうか。

もちろん、昔と比べてその「正義」を実行しやすくなった、他の「正義の使者」と共有しやすくなったという環境の変化は大きいかもしれないけれど、俺の正義は他人にとっての悪かもしれないよ、ということを認識するだけでもずいぶん違う気がする。

米軍がISISの拠点を空爆するのが正義だというなら、身体に爆薬を巻いて市場に突っ込んでいく人もまた、自分の行為は正義の執行だと信じている。正義というやつはそうして、数えきれないほどの人の命を奪ってきたわけで。

藤子不二雄先生の短編で『ウルトラスーパーデラックスマン』という傑作がある。

 社会の悪に対する怒りを新聞への投書で細々と晴らしていたサラリーマンの男がある日突然超人的な能力を手に入れて…という筋書きだが、オチも含めて非常に秀逸で、「正義」というものについて示唆に富む作品だと思う。

グローバルって、なんだ?

 少し前の話になってしまうが、小誌5月号で「『グローバル』って、なんだ?」という小特集を組んだ。「グローバル人材」とはいったいどういう意味なのか、世界とつながって働く人たちの実際の姿、国際教育に力を入れる大学の事例などをまとめているので、将来の進路として国際的な職業を意識している受験生の皆さんにはぜひ読んでいただければと思う。

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 さて、ここで書こうと思うのはこの小特集の「『グローバル』って、なんだ?」というタイトルについてだ。記事の前段にも書いたのだが、世間にはどうも「グローバル人材=英語が話せる人」という認識が独り歩きしていて、これからは英語ができないとまずい、留学くらい行っておかないと将来がない、という不安が子どもや親たちを煽っているらしい。逆に、英語さえ話せれば、留学に行っておけば何とかなるといった雰囲気も感じられて、それはちょっと違うんじゃないかという思いを反映したタイトルであったのだが、そんな思いを強くするようになったある出来事について、書き留めておきたい。

 もう10年近くも前の話だが、仕事を通じてある人と知り合いになった。仮にAさんとしておこう。詳細は伏せるが、Aさんは英語教育を通じていわゆるグローバル人材を育てる仕事に長年携わっていて、その世界ではちょっとした有名人でもある。しばらくしてAさんは私のFacebookアカウントに友だち申請を送ってきて、私のニュースフィードには彼の投稿やシェアが頻繁に表示されるようになった。私たちは時おりコメントも交わしていた。

 AさんがFacebookでおかしなことを言い始めたのは2011年3月11日に起きた東日本大震災から後のこと。翌日から発生した東京電力福島第一原発事故のことも含めて、TwitterFacebookなどのSNSが数限りないデマの増幅装置として働いてしまったことは、ご記憶の方も多いだろう。残念ながらAさんその人も、デマの増幅に加担するひとりとなっていた。「大飯原発再稼働に反対するドイツでのデモ」と称するあからさまなコラ画像を彼がシェアしたときには、さすがにシェアを削除することを勧めるコメントを入れたのだが、彼は画像の内容がデマであることは認めたものの、シェアを削除することはなかった。

 その後、彼の興味は震災・原発から別なトピックに移ったようだった。決定的だったのは、ある日本の政治家がコップの水を口にしている写真をシェアしていたこと。その所作を取り上げて、この動作は某国人のマナーである、したがってこの政治家は日本人ではなく在日外国人であると決めつけるものであった。ここまでくると、もはやかける言葉もない。私は黙って彼のアカウントをブロックするほかなかった。残念な思い出だ。

 Aさんは当然自身も留学経験があり、米国の大学で学位も取得している。アメリカでの学生時代、そこには上で取り上げた某国からやって来た学友も必ずいたはず。そんな彼が、露骨で稚拙なレイシズムをすんなりと受け入れるようになってしまったのはなぜだろう。

 ちょっと例が長くなってしまったが、国際的な人材教育にあたって「英語力」を前面に出しすぎることへの個人的な疑問がこういうところにある。もちろん、英語を運用する能力はこれからの国際社会に入っていくためのツールとして絶対に必要。そこはおおいに賛成だ。しかし、英語と同じくらいに、大人として身につけるべき資質については忘れてはならないと思う。それは科学の基礎知識や歴史学、多様性に対する理解など、一般に「教養」と呼ばれるものではないかと思う。教養はそれを学ぶ人の中に、生半可な意見には流されない柱をつくる。逆に、柱を持っていない人の心はちょっとした出来事や意見を前に右へ左へと揺れ動き、気がつくとトンデモない場所に立っていたりする。

 小誌にもグローバル教育に関する情報のニーズは強い。志のある受験生が将来、スキルと教養を十分に身につけて、世界で尊敬される人材になるためにも、バランスの良い情報を提供できるよう心がけていきたいなと思っている。